月々の法話

月々の法話

師匠が期待を込めて名付けたしこ名です


 茨城県出身の稀勢の里関(本名-萩原寛-はぎわら・ゆたか)さんがついに大関に昇進となりました。年五場所すべてで勝ち越し、うち4場所は10勝以上の成績を残していますので、当然の結果だと思います。さて、この稀勢の里というしこ名は、亡くなった師匠が期待を込めて付けた名前です。現役の頃、隆の里関は、親交のあった曹洞宗大本山永平寺貫首秦慧玉禅師から贈られた言葉「作稀勢(稀なる勢いを作す)」から将来横綱になりうる力量を持った弟子が現れたら「稀勢の里」と名付けようと思ったそうです。若干18歳史上二位で新入幕を果たし、そのしこ名を頂いた稀勢の里ですが、その後はライバルたちに先を越されなかなか大関になれませんでした。しかし、目先の勝利の為の奇策は用いず、どんな大きな相手にも真っ向から勝負をいどむその姿勢が変わることはなかったのです。

 ところで、秦慧玉禅師は、私が永平寺で修行していた時の禅師様です。秦禅師は漢詩の大家でもありました。「詩偈作法」という本も出版されています。禅宗の僧侶は、法語を唱えたり、戒名を付けたりする時、こうした漢詩の知識が必要となります。

 最近亡くなった落語家が自分で戒名を作ったと話題になりましたが、漢詩の勉強をしている人なら決してつけない漢字の並びです。そもそも、「家元勝手」を「いえもとかって」とは読みません、禅宗は基本的に呉音(ごおん)読みですので「ケガンショウシュ」となります。「カゲンショウシュウ」と読める漢字の並びなら多少響きが良くなります。韻や平仄に気を使うとさらに戒名らしくなります。なにより、戒名は仏弟子としての名前ですので、音の響きだけでなく、意味合いも大事です。私は、漢詩が好きですので、戒名の四文字で、自然の情景とその人の姿が目に浮かぶ、詩のような戒名を付けるように心がけています。

 おしん横綱とも呼ばれた辛抱の人「隆の里」関は、禅師様よりこの言葉を頂いたときに、弟子につけるしこ名に結びつけたということが、後進の指導に力を注いだ元の鳴門親方らしいと思いました。前親方の思いをしっかり受け止め、稀勢の里関には精進を続け、横綱を目指して欲しいと思います。

2011-12-01 | Posted in 月々の法話Comments Closed 

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